家駒のお墓参り

1995年12月、私はついに香港にやってきた。早くお墓参りをしたいと思いつつ、諸々 の理由によりなかなか香港に行くことが出来ず、すでにこの時家駒が亡くなってから 2年半近くが経ってしまっていた。
この2年半の間にはたくさんのBEYONDファン仲間 から墓参り報告を受け、中にはお墓の写真を撮って送ってきてくれた親切な方もい た。少々不謹慎なようにも思われるが、遠く離れた地にいた私にとって、このお墓の 写真がどれだけ家駒を近くに感じ、支えになったかわからない。

 

家駒のお墓参りに行くたくさんのファンがそうするように、私もまず家駒の霊が祀ら れているお寺『省善眞堂』へ向かった。地下鉄MTRの九龍塘駅から徒歩で7〜8分と いったところだろうか。事前にファン仲間からいろいろ教えてもらっていたおかげで 簡単にたどり着けた。
お寺の人に「家駒の...。」と話し掛けると、
「おー、家駒 のお参りに来たのか? こっちだよ。」と案内してくれた。
そこにはたくさんの人た ちの遺影の中に人一倍大きな家駒の遺影が飾ってあり、その下にはたくさんのファン からの手紙やお供えが置かれていた。なかでも家駒が生前好きだったというコーラの 缶が何本か供えられていた。私もこの日の為にと用意してきた家駒へのお土産を供え させてもらい、お線香を上げて出てきた。

省善眞堂を後に、今度はいよいよお墓のある将軍墺(英名:ジャンク・ベイ)へ向かっ た。教わっていたとおりMTRの終点藍田駅で降りて、タクシー乗り場に向かった。 一台のタクシーの運ちゃんに行き先を告げる。
将軍墺華人永遠墳場(チェングワァ ンオウ・ワァヤン・ウェンウィン・フォンチェーン)』
「あぁ??」 ...
通じな い。もう一回言って見よう。前日に香港人から特訓を受けたこのやたら言いにくい墓 地名は、二度目もやっぱり通じなかった。仕方なく紙に書いてやっとわかってもらえ た。家駒の墓参りに行くのだと伝えたらとても驚いていた。
「いくらぐらいかかりま すか?」
「行ってみないとわからないが、たぶん30ドルぐらいだろう。」
曖昧な記憶 だが、たしか20分ぐらい乗ったところで墓地の看板が見えてきた。
タクシーに乗った まま入り口を通って、さらに坂道を上っていく。私がテレビやファン仲間から送って もらったお墓の写真で見た時は、まだ何もないだだっ広い墓地にぽつんと家駒のお墓 だけが建っていたので、いとも簡単に見つかるものかと思っていたら、この頃にはも う一面にびっしりと空きがなく墓が建ち並んでいて、この中から探すのかと思ったら 一瞬気が遠くなったが、落ち着いて考えてみれば、『十五段第六台二十五號』これが 家駒の眠っているお墓の住所だ。ブロック(段)ごとに十二段、十三段、十四段と坂を 上って行くに連れて数字が大きくなっていく。
「あ、あった十五段!」ここでタク シーを降りた。メーターは40ドルを指していた。10ドルオーバー。まぁ、しょうがな いか。運ちゃんにお礼を言って去ろうとすると
「帰りはどうするんだ?」と言う。
「下まで降りてまたタクシーを拾います。」
「ここら辺は車がつかまらないぞ。何な ら待っててやるけど。」
たしかに言われてみれば何もなさそうな所だしタクシー拾えそうにないな。折角なので待っててもらうことにした。気がつくと、運ちゃんもタクシーを降りて一緒になって墓探しを始めていた。運ちゃんはおじさんのお墓参りに来ていたという関係ない人まで巻き込んで、家駒の墓探しをしていた。第六台、下から 階段を上って六台目、ここまできたら家駒の墓石が目に飛び込んできた。二十五番目 に並んでいる白い大理石のお墓。周りはたくさんのファンからの花やカードで飾られ ている。やっぱり一際目立つ。
「やっと来たよ。やっと会えたよ。」そう言って、 買ってきたお花とたばことコーラを供えた。肩から力が抜けた。ずっと重たかった気 持ちがすぅーっと楽になったような気がした。後ろを振り返ってみると、この高台か ら見えるジャンク・ベイの景色は本当にきれいだった。

運ちゃんも待ってるし、そろそろ行かねば。
「家駒、また来るよ。」そう告げてタク シーに戻った。
「行きに40ドルかかっちゃったから、帰りはメーターを使わずに20ド ルで行ってやるよ。」本当か?何かうさんくさい。海外でタクシーに乗ると、まず 疑ってかかる癖が身についてしまっていた。しかし香港のタクシーは違う。全般的に かなり信用できると言ってよい。
藍田駅に戻ると約束どおり20ドルでいいと言うので10ドル札を2枚渡した。するとおじさんは1枚だけ受け取るともう1枚を返してくれ た。「えっ?」とても感激した。今日は最高にいい日だった。運ちゃん本当にありが とう。

あれから私が約束どおり二度目に家駒を訪ねたのは、清明節の日だった。清明節とは 中国人が先祖のお墓参りをする日である。例によってお寺を回ったあと、お墓に向 かった。今回の運ちゃんは前回とは違い、えらいクールな人だ。
今日は人が多いせい で、墓地の中までタクシーで乗り入れることが出来ず、「ここまでだ。」と入り口の 外でさっさと降ろされた。何やら今日はシャトルバスみたいのが走っててピストン式 で次から次へと大勢の墓参客を運んでいる。私は多くの人に混じり、歩いて坂道を上 りだした。
途中缶ジュースの屋台みたいなものが出ていたり、前回はたしかなかった はずの仮設トイレまで用意されていたりして、辺りは軽いお祭り気分だった。タク シーで行ったらすぐだった坂道も、徒歩でいくと結構ある。でも自分の足でたどり着 いたとき、前回とはまた違った感動があった。
今日はたくさんのファンが墓の周りに たむろっている。何度か声を掛けてみようかと思ったが、私は日本人。家駒の命を 奪った日本に対し反日感情を抱いているファンも少なくない。そう聞かされていたの で、どうしても勇気が出ず、ぎこちないお参りの仕方で日本人とばれないように気を 使いながら、そっと家駒との再会を済ませた。

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