ノリさんとベンちゃんが目撃したのは、立法局の周りを取り囲むように群集が集まって大規模な民主化デモが繰り広げられていたのだった。前方のステージでは歌と演説がおこなわれ、それを見守る大観衆、さらにそのまわりを包囲している警官隊達。世界各国から集まったマスコミ報道陣でごったがえしていたのであった。
「こっここだ!俺達の求めていた場所は!ここしかない!」いきなりノリさんとベンちゃんのハートはレッドゾーンに跳ね上がるのを感じるのであった。周囲では民主と平和を象徴する黄色い垂れ幕を持って立法局を取り囲んでいる。その垂れ幕にはさまざまなメッセージが書かれていた。そのデモは江沢民首相を名指しで批難し、大声を張り上げ民主化への希望を強く訴えている。
これって、もしかすると天安門事件以来の大規模な民主化デモかもしれない、天安門事件の時は無防備な民衆に軍の戦車まで出動し大勢の死傷者が出てしまったけれど、ここ香港もあと数時間たてば中国に返還される。中国の法律に切り替わってしまう。もしかしたらデモ法によって全員逮捕されちゃうかもしれない。まさか天安門事件のように戦車まで出動することはないだろうけど、警察隊との衝突ぐらいは起こるかもしれない。行く先が見えないまま会場のボルテージは上がってゆくのであった。
ノリさんとベンちゃんも何故か訳のわからない使命感に燃えて、大声で自由と平和を叫んだ。やがて時間が押し迫り、ステージの上ではカウントダウンが始まった!
その場にいる全員で広東語によるカウントダウンをおこなう。
十、九、八、七、六、五、四、三、二、一!!!ウワァ〜〜〜〜〜
周囲は歓声に包まれステージでは民主の炎が灯された。会場全体では激しく民主化万歳と大連呼。ボルテージはクライマックスだ。
どうやら心配した警察隊の動きはないみたい。やがて、小さなキャンドルを手渡されて参加者全員で長蛇の列のデモ行進がはじまった。街中はえらいお祭りさわぎになっている。しばらく街を練り歩き、デモ行進は山側の道を登り始めた。
ここで俺達はここで戦線離脱する。朝から晩まで歩きまわったり雨に降られたりで、クタクタのレロレロ状態だったのだ。なにやらある種、恍惚とした表情のノリさんとベンちゃんだった。
深夜営業のスターフェリーに乗って九龍半島にもどる。
「 きっと、俺達の活動は全世界に報道されたに違いない。香港の平和を祈る」
放心状態のノリさんとベンちゃんの眼に九龍半島のネオンは幻想的に見えた…。
中国に復帰した香港
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